発展する衝突

トロツキー/訳 西島栄

【解説】本論文は、2月革命直後にアメリカにいたトロツキーが書いた一連の論文の一つである。この論文の中でトロツキーは、臨時政府を支配しているブルジョア自由主義者に革命を完成させることができないだけでなく、ますます帝国主義的ブルジョアジーと革命的プロレタリアートとの対立が強まること、とりわけ憲法制定議会の召集をめぐって対立が発展することを指摘し、「革命的プロレタリアートは臨時政府の執行機関に自らの革命的機関を、すなわち労働者・兵士・農民ソヴィエトをただちに対置しなければならない。この闘争においてプロレタリアートは、決起しつつある人民大衆を自己の周りに結集しつつ、権力の獲得を自らの直接的な目的として設定しなければならない」と主張している。

Л.Троцкий, Нарастающий конфликт, Сочинения, Том.3, 1917, Час.1, Мос-Лен., 1924.

Translated by Trotsky Institute of Japan


 都市プロレタリアートを先頭とする革命勢力と、一時的に権力に就いている反革命的自由主義ブルジョアジーとの間の公然たる衝突は完全に不可避である。もちろん、階級的分裂に対する「全国民的統一」の大いなる優位性を云々する多くの憐れな言辞をかき集めることも可能である――事実、自由主義ブルジョアと俗物的なエセ社会主義者たちは熱心にこれに取りかかっている。だが、このような念仏によって社会的矛盾を取り除いたり、革命闘争の必然的発展を押し止めたりすることに今だかつで誰も成功したことはない。

 現在展開されている諸事件の内的歴史について、われわれはただ公式の外電に見え隠れする断片や片鱗によってしかうかがい知ることができない。それにもかかわらず、現在すでにわれわれは、今後ますます革命的プロレタリアートが自由主義ブルジョアジーとも対立せざるをない2つの問題を簡単に書き表わすことができる。

 国家形態の問題はすでに最初の衝突を引き起こした。ロシア自由主義は君主制を必要としている。帝国主義政策がとられているすべての国で、われわれは個人独裁がすさまじい勢いで成長しているのを目にしている。イギリスの国王、フランスの大統領、最近ではアメリカ合衆国の大統領――彼らは自己の手中に巨大な国家権力を集中した。世界的強奪と秘密条約と公然たる裏切りの政策は、議会のコントロールから独立することを必要とし、内閣の部分的な交替によって方針が変更されないような保証を必要とする。他方では、君主制は有産階級にとって、プロレタリアートの革命的傾向と闘争する上で最も安定した支柱である。

 ロシアにおいて、この2つの原因がどこよりも強く作用している。ロシア・ブルジョアジーは人民に普通選挙権を与えなくてもすむとは思っていない。なぜならば、これを拒否すれば、たちまち最も広範な大衆が臨時政府に反対して立ち上がり、すぐさまプロレタリアートのより決然たる新しい一翼が革命運動の中で優位性を得ることになることを彼らは理解しているからである。ミハイル・アレクサンドルヴィッチ[ニコライ2世の弟]という名の予備君主でさえ、「平等、直接、秘密の普通選挙権」を約束することなしに玉座に近づくすべはないことを心得ている。それだけにいっそう、ブルジョアジーにとって、勤労大衆の深刻な社会革命的要求に対抗する君主主義的平衡錘が重要となるのである。

 形式上、言葉の上ではブルジョアジーはこの問題の解決を将来の憲法制定議会に委ねることに同意している。しかし、実際には、オクチャブリスト=カデットの臨時政府、およびそれを補完しているオクチャブリスト=カデットの内閣は憲法制定議会召集のための準備作業を、共和制に反対する君主制のための闘争に変えてしまうだろう。憲法制定議会の性格は、誰がどのようにそれを召集するのかに巨大な程度でかかっている。

 したがって、現在すでに革命的プロレタリアートは臨時政府の執行機関に自らの革命的機関を、すなわち労働者・兵士・農民ソヴィエトをただちに対置しなければならない。この闘争においてプロレタリアートは、決起しつつある人民大衆を自己の周りに結集しつつ、権力の獲得を自らの直接的な目的として設定しなければならない。革命的労働者政府だけが、憲法制定議会の準備期間中にすでに、国のラディカルな民主主義的清掃を行ない、軍隊を上から下まで刷新し、軍隊を革命的民兵に変え、下層農民に、自分たちの救いがただ革命的労働者の体制を支持することのうちにのみあるということを実地に証明する意志と能力とを持つであろう。このような準備作業にもとづいて召集される憲法制定議会は、真にわが国の革命的・創造的勢力を反映し、さらに自らを革命のさらなる発展のための強力な武器とすることができるのである。

 国際主義的・社会主義的プロレタリアートが自由主義的・帝国主義的ブルジョアジーに対立せざるをえない第2の問題は、戦争と平和に対する態度の問題である。

    『ノーヴィ・ミール』第940号

       1917年3月6日(新暦19日)

ロシア語版『トロツキー著作集』第3巻『1917年』第1部所収

『トロツキー研究』第5号より


  

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