ソ連邦と日本

『大阪毎日』特派員・布施勝治(1)氏との対話
トロツキー/訳 西島栄

【解説】このインタビューは、ソ連通の日本人記者布施勝治によって1924年に行なわれたものである。布施勝治は、革命前から『大阪毎日』新聞の特派員としてロシアに滞在し、1917年の革命の最中においてもペトログラードで革命をつぶさに観察し、革命直後にトロツキーにインタビューを試みている。布施は、トロツキーをはじめとするソ連の政府要人と親しくつき合い、多くの貴重なインタビューをものにしている。布施は、トロツキーがプリンキポに追放されたときにも、わざわざプリンキポにまで出向いて、インタビューを成功させている。

Л.Троцкий, СССР и Япония(Беседа корреспондента японской газеты 《Осака Майничи》г.К.Фусе с тва.Л.Д.Троцкий), Известия, 1924.4.24.

Translated by Trotsky Institute of Japan


 1、質問――何度か交渉が行なわれたにもかかわらず、日ソ関係は、最近、悪化しています。1920年にヴェ・イ・レーニンは個人的な会話の中で、私にこう言っていました。「現在生じているいっさいのこと[日本の軍事干渉]にもかかわらず、私は、われわれの将来の関係を楽観主義的に見ています」。将来におけるソ連と日本とのありうる関係について、あなたのお考えを聞かせてください。

 回答――あなたはの情報によれば、ヴェ・イ・レーニンが個人的な会話の中で「現在生じているいっさいのことにもかかわらず、私は、われわれの将来の関係を楽観主義的に見ています」と言ったとのことです。もちろん、ウラジーミル・イリイチは、この発言によって、1920年の時点での日本政府の善意に対する何らかの信頼を表明したものでは断じてありません。この発言の意味は、明らかに、偉大なる日本人民が、自国の反動勢力の抵抗にもかかわらず、結局のところは、ソヴィエト連邦との正常であるだけでなく友好的でもある関係を確立するだろうということです。この考えに私はまったく賛成です。

 

 2、質問――ソヴィエトの東方専門家のあいだには、現在の日本について相互に矛盾する2つの見解が見受けられます。一つは、日本は震災(2)の後で帝国主義国であることをやめたと答えています。もう一つの意見は反対に、帝国主義の強化を予想しています。あなたの意見では、いかなる方法を通じれば、日本とその国民は、帝国主義という非難から免れることができるのでしょうか? このような非難は、非常にしばしば、日本が偉大な諸民族共同体に対する友好的な関係を結ぶことを妨げています。

 回答――私は、地震が、日本の支配階級の政策の帝国主義的性格を台無しにしたとは思いません。帝国主義は、国家の社会的構造に依存しているのであって、その領土の地理的構造に存在しているのではありません。地震は、帝国主義の力を一時的に弱めましたが、政治的方法としての帝国主義を清算するものではありません。帝国主義に対抗することができるのは、日本の社会生活および政治生活を徹底して民主化する場合のみです。

 

 3、質問――世界大戦の中で人類が体験した恐るべき教訓の後にもかかわらず、火薬の匂いはまだまったく消え去っておらず、サーベルをがちゃつかせる音もまったく鳴り止んでいません。このような歴史の教訓にもかかわらず、今後も諸民族間の軍事衝突は可能であると考えますか、また、可能であるとしたらどのような根拠にもとづいてでしょうか?

 4、質問――日米戦争の可能性に関して、全世界の軍事的権威のあいだでは意見の相違があります。一方はそれはありうると考えており、他方は不可能であると考えています。軍事的組織者であり世界で最も優れた軍隊の一つを創設した偉大な権威としてのあなたに質問することをお許し願いたいのですが、このような戦争の可能性はどれほどあるでしょうか?

 回答――最近の世界大戦に見られるような「歴史の教訓」が新しい戦争を妨げると考えることができるでしょうか? いや、私はまったくそうは思いません。ユートピア主義者の目には、戦争が起こるたびごとに、それはいつも歴史の救済的教訓となります。しかし、それは次の戦争が勃発することを妨げませんでした。現代における戦争の根源は、世界的舞台で非和解的な利害を追求している資本主義的社会構造にあります。破壊されたヨーロッパには現在、先の大戦前夜の時と同じだけの数の兵隊がいます。ヨーロッパにおける対立は、現在、先の帝国主義戦争前夜よりも先鋭になっています。

 そして太平洋の沿岸において諸矛盾は緩和するどころか、先鋭化しています。私は、アメリカ合衆国と日本との戦争はありえないと考える人々に属しているでしょうか? いいえ、いくら望もうとも、私はそのような考えに与するものではありません。アメリカ合衆国と日本は、2つの最も強力な資本主義国家であり、強力な軍事力を有し、多くの敵対的な利害によって分裂しています。

 では、両者間の戦争が「不可避」であると考えているということでしょうか? いえ、そうではありません。いっさいは、これら両国のそれぞれの国内で帝国主義的傾向がどの程度の抵抗に出くわすかにかかっています。

 

 5、質問――ソ連邦と日本とのあいだには、日本の広範な社会階層の意見によれば、経済的のみならず政治的な利害の共通性が存在しています。すなわち、(1)ロシアは、人種的同権の問題において、ヨーロッパ列強の中で唯一日本の味方になってくれる可能性がある国です。この同権は、日本が、ベルサイユ会議の場で一致して拒否されたものです。(2)ヨーロッパとアメリカのくびきからの東方諸民族の解放に対するソヴィエトの見解は、「アジア人のためのアジア」という日本のスローガンと一致しています。(3)中国は、ソ連邦の隣国であると同時に日本の隣国であり、中国との関係に、ソ連も日本も深い利害関係を持っています。しかし、その中国は、不安定な国内情勢のせいで、あらゆる予期せぬ事態が可能な国になっています。このことは、ソ連と日本が、その中国政策において協調する必要性を喚起しています。

 そこでお尋ねしますが、この政治的利害の共通性は、将来の日ソ関係を確立する上でどのような意義を持っているでしょうか?

 回答――もちろん、問題が、日本人を劣等人種として見下そうとする忌まわしく恥ずべき態度に対する闘争が問題になっているかぎり、日本人民はソヴィエト連邦のうちにつねに確固たる誠実な友人を見出すでしょう。優等人種と劣等人種というイデオロギーは、アジアが停滞の中にあった時代における旧ヨーロッパの支配階級の思い上がりを表現するものです。しかし、このような停滞は完全に歴史的に過去のものとなりました。アジアは目覚めました。そして、ヨーロッパが、ベルサイユ講和によって作り出された状況の中で腐敗していくなら、歴史的発展の重心は完全にアメリカとアジアに移るでしょう。そして、アメリカ合衆国の支配階級が黄色人種に対する敵対的・軽蔑的態度を養っているかぎり、彼らは新しい大規模な流血の衝突の危険性を先鋭化させつつあります。

 あなたは、東方諸民族の解放というわれわれのスローガンが「アジア人のためのアジア」という日本国民のスローガンと一致しているとおっしゃっています。たしかに、アジア諸民族に対するヨーロッパ帝国主義の支配と専制に対してわれわれが断固として反対しているかぎりにおいて、一致しています。しかし、このことから、一つのアジア民族が他のアジア諸民族を抑圧し隷属させる権利をわれわれが承認しているなどという結論は、言うまでもなく、まったく出てきません。そうではなく、われわれは、ヨーロッパのくびきから解放されたアジアの内部においては、すべての民族の自決権を支持します。ソヴィエト連邦と日本との正常で安定した関係は、遅かれ早かれ、両国の同権にもとづいて、そしてもちろんのこと、何らかの第三国を犠牲にすることのない形で、確立することができるし、確立されるでしょう。

『イズベスチヤ』1924年4月24日号

『トロツキー研究』第35号より

  訳注

(1)布施勝治(1886-1953)……日本の新聞記者。10月革命および内戦期に何度かロシアを訪問し、1920年6月初めにレーニンにインタビューしている。ソ連に関する多数の著作を執筆し、トロツキーとも何度かインタビューを行なっている。

(2)震災……1923年9月に起こった関東大震災のこと。死者・行方不明者14万人、負傷者10万人を出した。


  

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